締付完了が目視でき軸力を保証する「トルシア形普通ボルトのセット」
の販売開始(2023年1月)
1. 新製品とその特徴「トルシア形普通ボルトのセット」 品番TM-TC1180
①従来-普通ボルトセットの課題と新製品「トルシア形普通ボルトのセット」のねらい
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低強度の普通ボルトセットの接合には施工基準(締付基準)がなく、現場作業者の勘に任せて締付接合され、適切な締付軸力確保の保証がされていない。その結果、強風や振動などの自然環境の条件変化により、接合の緩みやナットの脱落などの問題*が発生している。
*門田和雄「暮らしを支えるねじのひみつ」(SBクリエイティブ 2009年)によると、ねじ締結体のトラブルは「 1) 締付け不良43%、2) ゆるみ20%、3) 疲れ破壊12%(略)、上記のうち1~3までは適切に締付が実施されていない要因によるところが多く、この3点で75%を占めている」、と記されている。
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土木建築用のトルシア形高力ボルトでは、締付時にピンテールノッチ部の破断により締付軸力が保証されているが、そのピンテールノッチ部の破断による普通ボルトへの締付軸力保証の取組みは、今まで一度も試みられたことがない。
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当社は、施工基準に基づいた土木建築用のトルシア形高力ボルト及び低強度の普通ボルトを製造している。高力ボルトの緩まない機能の開発に取り組んできたが、そのノウハウと技術力でもって、低強度の普通ボルトの締付軸力基準を設定すると共に、その基準を満たすトルシア形普通ボルトを日本で初めて開発した。
②「トルシア形普通ボルトのセット」の機能
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締付レンチで締付けるとき、普通ボルトのセット(強度区分4.8*)のボルトねじ部先端に設けられた破断溝から外に突出する部分が締付トルクの反力により、所定の締付軸力に達した時、破断溝から先端部が捩り破断される。
*強度区分4.8 : JISで規定され、材料は炭素鋼で、4は引張り強さで最小400N/mm2の1/100を4と表示し、後ろの8は耐力を表し引張り強さ400N/mm2との比率で80%の値の保証を表示する。
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機械用途ではボルトの取り外しが必要であり、トルシア形のボルト丸頭部を六角形状に変更している。
③「トルシア形普通ボルトのセット」の特徴
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トルシア形高力ボルトの締付レンチを使用できるようにし、その締付方法も踏襲する。
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締付作業において作業者の勘ではなく、締付軸力を設定した締付レンチの動作により、ボルト先端部(ピンテール)が設定した締付軸力で破断することで、普通ボルトの締付完了が目視でき、締付軸力及びトルク管理を保証できる。
④「トルシア形普通ボルトのセット」の使用用途
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建設や土木および機械の一般的な普通ボルト締付において、現場作業の省力化、締付の安全安心度の性能(ゆるみと脱落、オーバートルク破損など)が向上する。
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トルシア形普通ボルトは、安価な炭素鋼材を使用し建築物や機械などの全ての部材接合用途を対象に、安価でかつ締付トルクが保証できる特徴を有する。機械などの用途では接合の取り外す場合が想定されるので、ボルト頭部は六角形状にしてスパナで固定できるようにしている。
2. 新製品「トルシア形普通ボルトのセット」の規格
①締付と接合
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既存のトルシア形高力ボルト用レンチを使用して締付を行う
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締付軸力 4.8~5.8相当(JIS B1180およびB1186関連規格)
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トルク係数値 参考値A種 0.110~0.150規格内とする。(施工現場は冬夏で-20℃から+60℃くらいの温度差があり、この範囲内でトルク係数を一定にして、ボルト破断溝の破断トルクを一定にする必要がある)。当社のノウハウを活かし、ナットに特殊な表面処理剤を施すことにより、トルク係数を安定化している。
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図に示す強度区分4.8のトルシア形ボルトセット(ボルト・ナット・平座金)の締付軸力保証、並びにトルク管理を行う。(安定したトルク係数により、ボルトセットの締付トルクによって締付軸力を保証する)
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本ボルトは施工後に取り外す場合に対応できるようにしている。ボルト頭部は六角にしてスパナで回らないようにして、ナットを回転させて取り外しを可能にしている。
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ピンテール部は規定の標準締付軸力で破断するように、ボルトの破断溝径を定めている
②ボルト・ナット・平座金の各寸法(単位:mm)
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ボルト: 強度区分4.8のトルシア形、取り外せるよう頭部は六角形状とした。
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ナット: 取り外せるよう考慮、材料は4T、六角径は高力ボルト規格、高さはB1181を採用した。
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平座金: 高力ボルト規格に合わしF35Aとした。(強度は10H~14H相当)
③機械的性質(JIS B1180に準じる)
3. 新製品「トルシア形普通ボルトのセット」の提供
①生産するボルトサイズ(単位:mm)
*上記にないサイズのご用命については問合せください。
*今後、高力トルシア用レンチメーカーとの連携により、ねじ径M12以下のボルトについても対応を計画しています。
②標準的な価格
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「トルシア形普通ボルトセット」の価格は、普通ボルトセット(ねじ外径20mm長さ75mm)の価格に比し、約20%増の価格を予定しています。
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鋼材価格・ボルトサイズ・数量等で価格は個々に異なりますので、問合せください。
③販売開始 2023年1月予定
4. 締付方法
①トルシア形高力レンチ
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下図に示す既存のトルシア形高力レンチを使用して、トルシア形普通ボルトセットの締付を行う。
②トルシア形普通ボルトセット(ボルト・座金・ナット)の構造と締付動作図
③締付の動作説明
(イ)施行前
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施工前のイ)図において、ボルトのねじ部先端には締付トルクにより所定の締付軸力が発生すると破断するように、ボルトのねじ径に則した径の破断溝②が設けられている。
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非締付け体⑥を、ボルト③の頭部⑨と、座金⑤を介してナット④とで挟み、ナット④を回して締め付ける。
(ロ)施工中
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締付レンチはナットを回転するアウターソケット⑦と、ボルトの先端部のピンテール①を掴むインナーソケット⑧の二重構造となっている。
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締付レンチのインナーソケット⑧をボルトのピンテール①のセレーション(断面菊花状の溝)に噛合わせ、締付レンチのアウターソケット⑦をナット④の六角形と嚙合わせる。
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締付レンチのアウターソケット⑦にてナット④を回転させ締付け、設定の締付トルクでナット④がこれ以上締らないことを感知すると、ピンテール部①を掴んでいるインナーソケット⑧が逆回転しボルトの破断溝②で破断させる。
(ハ)施工後
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締付レンチを取り外すと、破断したボルトのピンテール部①も取り除かれる。
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締付でボルト先端部のピンテール①が破断溝②で破断されることで、設定した締付トルクと締付軸力が満足されることが目視で確認できる。
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締付けの現場作業で、作業者の勘に頼らず、ボルトの強度に対応した締付軸力による破断溝の破断にて締付完了が目視化され、かつ規定の締付軸力が補償され、安全安心な締付に繋がる。
5. 締付性能の保証―ボルト試験結果
ボルトトルク軸力試験(例-M20)
トルク試験機M36迄
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普通ボルト(強度区分4.8)に応じた締付の安定化のために、ボルトとナットとのトルク(摩擦)係数の一定化を実現している。
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当社ノウハウの、ナットに特殊な表面処理剤を施すことによりトルク(摩擦)係数を一定化し、ボルトの締付トルク管理を保証できるように工夫している。
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右図のボルトトルク軸力試験(M20長さ75mm(n=3))は、締付トルク平均 293.3Nm、締付軸力平均 90.3kN(トルク係数0.140 、破断溝径 約13.80mm)。
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ボルト試験にて、締付トルクと締付軸力を測定し、ピンテール部の破断による締付性能を確認し出荷する。
6. 締付信頼性の保証-振動試験結果(NAS式振動試験*)
NAS式振動試験機で接合緩みを評価(M36まで対応)
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新開発品の締付緩みをNAS式振動試験で評価、判定として振動試験後もボルトとナットのマーキングが一致していること。
*NAS式振動試験: 米国航空規格(NAS3350)に則して、振動幅±5.7mm、速度30Hz振動時間17分(3万サイクル)で締付耐久性を評価する。
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当社は、ボルト試験機にて振動試験後の残存締付軸力値を測定している。
上記のNAS式振動試験と振動試験後の残存締付軸力の、通常の六角4.8ボルトとトルシア形4.8ボルトの試験結果は下記の通りである。
①両方のボルトとも、M20 280Nmで締付けた。
②NAS振動試験の結果: 両方とも17分間の振動試験後のマーキングが一致していた。
③振動試験後の残存締付軸力(増締めトルク値で測定)は大きな差があり、締付信頼性が確認された。
通常の六角ボルト: 増締めトルク値180Nm(締付トルク値の64%)
トルシア形普通ボルト: 増締めトルク値260Nm(締付トルク値の93%)
通常六角ボルトに比べ、残存締付軸力(増締めトルク値で測定)は44%向上
当社は、2022年4月に創業60周年となりました。
そして2021年6月、経済産業省戦略的基盤技術高度化支援事業(略称サポイン)に「建設用部材に用いる緩み防止機能を有する冷間圧造高力六角ボルトセットの開発」が採択されました。
(特許第7090962号「ボルトの締結構造」令和4年6月17日登録)
トルシア専用レンチで締付するだけで、規定の締付け軸力・トルク管理を保証する
振動試験機(NAS式)で、緩みとボルト残存軸力を検証している